遠浅の日々
霜天

やがて、それはゆっくりと始まる

誰も気付かない視点の高さ
から、夜は上昇していく
もう僕らは沈み込んでいる歩幅
もがくよりも深く落ち着いたリズム
呼吸はあちこちで燻っていて
平面に広げた両手は
あの赤い服の裾をつかむことも出来ないので
また、月に言い訳をする
それほどに、穏やかな、それは夜



あれを、凪、というのなら
そこら中で隙間に挟まって
僕らは少しずつ離れていくだろう


遠浅の日は曖昧な海岸線を手頃な棒で線引きすることから始まる


針の抜け落ちた時計が
かたかたかた、と音を立てます
潜るには少し足りないこの場所は
今日も地図に載らないほどに広がっていて
道は、膝のあたりまで浸水して行方不明で
どこへも行けない僕らは
波音にただ、漂う


春、深いところの、夜、遠浅の日々
妨げるもののない水平線の広げるその
両手を真似る
目指していた白い灯台はもう白じゃなくて
僕らが積み上げたものは高いビルの下で
倒れそうになりながら回転し続ける歯車
毎日に組み込まれていたものは
ただ静かに広がる
水面


動けない僕らは、ゆっくりと目を閉じていく


後ろに倒れこむようにして
潜り込んでみた遠浅の日々は
思っていたよりもずっと、深い


自由詩 遠浅の日々 Copyright 霜天 2005-05-25 01:19:17
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