遠浅の日々
霜天
やがて、それはゆっくりと始まる
誰も気付かない視点の高さ
から、夜は上昇していく
もう僕らは沈み込んでいる歩幅
もがくよりも深く落ち着いたリズム
呼吸はあちこちで燻っていて
平面に広げた両手は
あの赤い服の裾をつかむことも出来ないので
また、月に言い訳をする
それほどに、穏やかな、それは夜
凪
あれを、凪、というのなら
そこら中で隙間に挟まって
僕らは少しずつ離れていくだろう
遠浅の日は曖昧な海岸線を手頃な棒で線引きすることから始まる
針の抜け落ちた時計が
かたかたかた、と音を立てます
潜るには少し足りないこの場所は
今日も地図に載らないほどに広がっていて
道は、膝のあたりまで浸水して行方不明で
どこへも行けない僕らは
波音にただ、漂う
春、深いところの、夜、遠浅の日々
妨げるもののない水平線の広げるその
両手を真似る
目指していた白い灯台はもう白じゃなくて
僕らが積み上げたものは高いビルの下で
倒れそうになりながら回転し続ける歯車
毎日に組み込まれていたものは
ただ静かに広がる
水面
動けない僕らは、ゆっくりと目を閉じていく
後ろに倒れこむようにして
潜り込んでみた遠浅の日々は
思っていたよりもずっと、深い