吉岡実をもっと吉岡実にするために
室町 礼
1
四人のリベラルサヨク
雲の見えるタワマン暮らし
ときに女装して
釘バットをもち
憎しみをこめて
裸体が映った鏡を叩く
駅伝の号砲が鳴るまで
一人はうつろ
一人はがらんどう
一人は空疎
一人はすからかん
4
四人のリベラルサヨク
夜の散歩に出かける
一人は大学教授の姿で便秘の悩みを子安地蔵に打ち明ける
一人は詩人の姿でお尻に蜂蜜を塗り愛犬為五郎に舐めてもらう
一人は評論家になって飯窪春菜の個展をこき下ろしにゆく
一人は三人を監視するために豚舎のブタと交信する
四人一緒にタップダンスを踊ったことはない
2
四人のリベラルサヨク
めいめいの務めにはげむ
喪服の上に水着を
ズボンの上にパンツをはき
一人が一人の背中に乗り
屋根にあがった一人が配達人を見張り
他の一人がベルを鳴らすとき
深夜の人里から押しよせる公金の洪水
四人はいっせいに立ちあがる
邪悪な四つのインスタグラム
おいしいシステムと天井知らずの公金
そこに穴があらわれ
紙幣がふりだす
3
四人のリベラルサヨク
夕べの食卓につく
舌のながい一人がフォークを配る
テレビコメンターの一人の手が酒を注ぐ
他の二人は手を洗いにゆき
今日のウソと
未来の暴露に怯えながら
同時に双方向に舌を出した
小児性愛者のソテーを皿に盛る
ウソもほんとうも
肉と骨のようにからみあい
三人は食べなかったといい
一人は黙って三人をみて首をふる
9
四人のリベラルサヨク
タワマンの屋上に上り
烏克蘭(ウクライナ)の煙をみておおはしゃぎ
生涯愛と縁がないので
世界より一段高い所で
首をつり共に嗤う
されば
四人の骨は冬の木の太さのまま
縄のきれる時代まで死んでいる