夏について
塔野夏子
そのはじまりからすでに
鋭く亡びに縁取られているのが夏で
青空と陽射しがどれほどあかるくても
そのあかるささえ不穏なのが夏で
蝉が鳴き騒いでも
祭の喧噪が渦巻いても
濃密な静寂が深々とまとわりついているのが夏で
だからもう 夏には何も考えない というのは
あるいは正しいのかもしれない
夏はそれとしてひとつの結界だから
何処までも行けるようで
何処までも行き止まりで
夏はどうしようもなく身体を侵犯してくるから
私 あたし 僕 俺
一人称さえ定まらなくなるもので
――夏は長い けれど本当の真夏は束の間
結局 毎年
夏に魂を売り渡すしかないのだな
個人サイト「Tower117」掲載
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