人は愚かさを抱いて歩いてきた
トビラ
友情を讃えて寂寥を
人差し指で薄く引く
青空は地中にもあるんだってさ
波の月、海中の星
先輩、今日は快調ですね
田井中さ、今日は、快調じゃなくて
今日も、快調なんだよ
想像してみろ
俺の一振りが、試合を変える
それはなにか決定的に大きなものを変える
俺はそう思う
そう思ってバットを振ってる
それは、先輩の人生が変わるってことですか?
そう
空振りもホームランも実は等価だ
本当に価値を発するのはな
どういう気持ちでバットを振るかだ
田井中は、野球、好きか?
好きです
俺も好きだ
だからバットを振る
自分の全部で振る
それはもう、愛ですね
そう、俺はバットを振って
この世界に愛を打ちこんでる
だから空振りもホームランも
どっちも愛する結果だ
田井中、俺の一振りは確実に世界を変えるぞ
先輩、先輩は賢いですけどすごいバカですよね
そうだ田井中、俺は賢いがすごくバカでもある
それでいい
それがいい
賢くやっても俺は満足できない
せっかく生まれてきたんだからさ
やりきりたいんだわ、俺は
だから田井中、俺はジイさんになっても
バットを振るぞ
へろへろでもいいんだ
へなへなでもいい
バットを振れなくなるまで振り切ったら、それは
まあ、それが俺のホームランなのかもな
先輩、俺も、俺のホームランが打ちたいです
そっか、がんばろうな一緒に
点線をたどった白球は
泥の記憶も鮮やかに
どこかで鳴ったサイレンも
ベースラインに沿ったまま
空を
先輩、俺、今もバット振ってますよ