フラグメント
ヒロセマコト
書きとめられることのなかった言葉は
綿毛のように目の前をただよい
掴もうとする指の間をすり抜け
風に流され消えていった
明け方に見た夢を思い出そうと
目を瞑っても白く掠れていくイメージ
散歩中にふと目にした風景が
消えかけた夢の記憶を呼び覚ます
塀をするりと飛び越えてやって来た
一匹の白い野良猫が
庭の片隅で寝そべり目を瞑る
薄曇りのやわらかな日差しの下で
思いがけず居眠りをした午後
しんとした部屋は薄暗く
夜明けと間違えたあなた
ずっとむかし旅先で出会ったひとと
交わしたいくつかの言葉が
ふいに思い出されて目を覚ます
猫の姿はもうなかった