ミッシングマス
アンテ

途方もなく大きな岩です
上空に浮かんだ岩が頭上をすっぽりと覆っていて
地面からのびた一本の柱が支えています
大勢の人がその下で暮らしています
街の周囲には巨大な壁があって
だれも外に出られません
柱は岩の重みでゆっくりと沈んでいます
地面を補強する人がいます
いっそ柱を折ってしまおうとする人がいます
ときどき岩のごく小さな部分が割れて
ばらばらと地上に落ちてきます
運の悪い人は押し潰されて死んでしまいます
柱が完全に沈んで岩が街を押し潰してしまう時間を
たくさんの人が計算しています
いろいろな説が流れます
さまざまな心配が囁かれます
地震や洪水や地震なんかが起こるたび
柱の疲労破壊や岩の崩壊速度や風化や
その他諸々の要因を計算しなおします
大部分の人は案外平気な顔で暮らしています
岩が潰すのは街全体のごく狭い範囲なので
運が良ければ何事もなく生きていられるでしょう
街がこんなに成長するまで
だれも岩の存在に気づかなかったわけですから
いつからあるのかも判らないのですから
そのうちきっとみんな忘れて
最初からなかったことになるでしょう
昼休みのチャイムが鳴りました
みんな仕事や遊びやおしゃべりや
計算や地面の補強や柱の破壊工作や
その他いろいろな行動を中断して食事に向かいます
そこらじゅうに岩が転がっているので
歩きにくいと不満をもらします
他人事みたいに不満をもらします
今日はなにを食べようかと思案します



自由詩 ミッシングマス Copyright アンテ 2003-11-30 10:07:28
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