涙
おまる
見慣れたカーテンの色彩が風に揺れて部屋全体を染める。ねぼけなまこで電話に出ると君からだった。君は僕の視線を逸らし、通いなれた道筋を迷うことなく進んでいった。これはゲームなのだ。渋谷とウチのちょうど中間地点に男が立っていてチョーセン語を喋っている。
僕は一体彼のどこを見て日本人だと見破ったのだろう。君も彼も態度があまりに普通なものだから、実に堂に入った芝居に見える。君がこの場に誘ったのも彼と引き合わせるのが目的で、思いのほか受け身な自分がいる。
僕は君らと話を交わすこともなく今度はどんなゲームになるのだろうと思うのだ。まちぜんたいがきょだいな密林だった。偽物のチョーセン人も、君が僕をいかがわしい場所に誘うのも、これはゲーム、ゲームなのだ。
君は踊らずに酒を飲んでいる。カッコイイ男には笑顔を。僕は一人ヘンテコなダンスを踊っている。マルデブルクの半球のように外圧が内部の真空を支えている。チョーセン人は君と日本語で喋っていて、こちらに気づくとぬけぬけと自己紹介してきた。君らは残酷な冗談みたいに常に微笑んでいる。僕は不安を誤魔化すように調子に乗って喋りまくり、朽ち果てた寂しみに涙が落ち。
僕が寝ている傍らで、君たちは親密な行為に及ぶのだ。ほんとは僕が眠ってないことなんてお見通し。まるで光源氏がやってくるかのように、僕はゲームが開始されるのを目撃する。
おもえば情けないことじゃないか?チョーセン人の獣欲がしずまり、どこかへいなくなった隙に、僕もたまらなくなり、ぐったりとした君と「成功」を試み、ああ、こんな罪深い実験をすればどんな裏側から僕は神に到達できるのだろうか。