緑のヌード
たちばなまこと

平日のストレンジャーは 知ったかぶりでを街を読む
河岸を撫で上げて 風は
わかい緑のたちこめる
捕まって あおられて 木漏れ日の空を仰ぐ
油断だらけの表皮に 羽は
微動の小虫 無数の交差 半透明にふりそそぐ
子どものような花びらと うずまいて 踊る
あなたが欲しいよ
腰が浮き気味で 女は
半身(はんみ)に誘いを浴びる

疾走の自転車にすれ違うのは 逆巻くヴィジョン
水面(みなも)は甘えた声で 西を向いてそろり 逃げ帰り
密に揺らぐ緑地の
人肌の波にふわり 車体を傾けられて
許してしまう 耳のうぶ毛

おいでよあなた
緑に沈んで 一緒に ねぇえ
水のベッドをあてがって
あなたはヌードで 詩にはならない声をきかせて
風の嫉妬の長い長い憂いの息を
いっぱいにからめて 肌理を埋めて
ひとつになりたいよ あなた
すごく欲しいよ
お願い ぼくにつかまって
ぼくはあなたの中で やさしく ゆっくり 動くから
あなたは華奢な白糸(しらいと)を 土へ渡しながら
白い胸を緑に染める
ぼくは緑のグラデーションを 太陽に伸ばして 見せびらかして
吸いこみたいよ あなた
甘噛みで確かめたいよ
ぼくは あなたから開かれた息をふさいで
からだの奥に あなたの糖分を呼んで 熱くなった反射を込めて
想いたい 芯からの要求を
あなたは細い指先に力を集めて ぼくを少しだけほどいて
緑を舐める
夜露のとろみに泣いてよ あなた

ストレンジャーにも親しい 街の端っこ
ヌードで 香をたいて 水をたたえて 待ってる
思うよりも風の嫉妬はせっかちで
カーディガンに手を伸ばす
女はあやうい右手で 上着の前を握りしめる
わだちにおちて 女もおちて 嫉妬にさらわれてゆく囁きをステレオタイプ
あなたが欲しいよ
彼方から迷い込んだMの字はゆるやかに 羽ばたいてまたたく
水面の甘えた声は アンニュイなまま東を目指し
乱れを直して女は 女の意志で目をつむる
緑が育つ 水がゆく
小鳥がキャッチする羽虫は 最後の息を
行方知れずの列車は リズムを
左手のベルは 湿った震えを
弾き語る
乳房のしびれに薄目を開けると
まだやらかい 青い鳥の羽が揺れていた



Mの字…カモメ


自由詩 緑のヌード Copyright たちばなまこと 2005-05-22 22:06:17
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