僕の「I was born」
九十九空間

キッチンには、朝陽が斜めに入る
僕は眩しくない身体の角度を保って
毎朝、玉子焼きを作る
お母さんは玉子焼きが大好きだから

鶏の無精卵を割るたび
命じゃなくて良かったと思う
有精卵なんて
恐ろしくてきっと割れないだろう

僕は不登校だけど楽しく生活しています
家事もだいたいできるようになりました
けれど、ときどき、とても、
とても――死にたくなります
             死にたくなるのです、

吉野弘の「I was born」を読んで
「生んでくれって頼んでないのに」と
お母さんに言ったとき
いま、お母さんに
ナイフ突きつけているんだと思った

お母さんはまっすぐ僕の目を見てた
僕は何か言おうとしたけど
もう何も言えなかった、体をぶるぶるふるわせて
心臓がどきどきして
へんな汗でぐっしょりになった

その日の夜、お母さんが
秘密のアルバムを見せてくれた
僕を身ごもってから
生んで
しばらくの間の写真だった

妊娠したときどれほど嬉しかったか
生まれてきたときどれほど嬉しかったか
僕が泣いて、笑って、
生きていてどれほど嬉しかったか
お母さんの言葉で伝えてくれた


自由詩 僕の「I was born」 Copyright 九十九空間 2024-09-15 14:36:47
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