Believe
鏡文志
「大人なんて、大嫌いだ」
と、ピーターパンは言った。
「僕を沢山殴ったからね。殴ったり蹴っ飛ばしたりした。でも、本当はそれだけならいいんだ。それを、隠蔽した。嘘を本当だと言うことにしたんだ。それで僕は大人になれず、空を飛び回る運命を選んだってことさ」
「でも、お父さんとお母さんは、貴方を愛してるでしょう?」
とウェンディは、心配そうに尋ねた。
「愛? 愛って、なに?」
「愛とは、意思よ」
「意志?」
「そう。手放すも、放り投げるも、本人の意思。愛とは、そう儚いものよ」
「愛が意志なら、信じる」
「信じるも信じないも、それは貴方の都合よ」
「都合?」
「そう、都合。サンタクロースを信じるのは、プレゼントが欲しいからでしょう? そう、都合」
「お父さんはそう言う、甘ったるい期待が大っ嫌いなんだ。それと分からず、僕は信じたフリをした。最初に僕を騙したのは、お父さんの方だね」
「ううん。お父さんはきっと貴方に、信じて欲しかったのよ」
「ハッハッハッ」
ピーターは笑う。それも高らかにである。
「どうしたの? ピーター?」
「実はオイラもそうだと思って、顔色を伺った。でも、その後の行いを見れば、それが嘘だと言うのはよく分かるこった」
ピーターは、寂しそうに俯く。
「愛とは、都合でしょうか?」
ピーターが顔を上げ、夜空を仰ぐように尋ねると、ウェンディはそうっと、ピーターに左手を差し伸べ、こう言う。
「いいえ。愛は都合じゃない。こうやって手を繋ぐと、互いの手が火照る。それが、愛よ。信じるのは、都合よ」
「信じる」
ピーターは黙って、俯き、ウェンディと繋いだ右手に、左手を重ねる。