オリンピック前の満月の夜の歌
秋葉竹


 

まずは、ひとつ
金メダルを獲得したのは
昨夜の夜空のまんまるい月
その光を浴びられたこと、かな

ちょっと繁華な街の
ちょっと安めの店で
アルコールを飲みながら
ふと
もうすぐ始まるパリのオリンピックのことを
考えて、ただもう、ほわーん、として来たら


なんでか、それまでの人生を
そのために捧げて来た
けれど勝つも負けるもなく
まったくべつの罪を犯したつみびと
今回の罪で心の壊れたつみびとの
力無い笑顔を想い浮かべた
みんな、酒飲むときは
心を遊ばせたくて飲むんだけど


でも、それでも世界の舞台に
出場できる努力ができるひとなんだ
ひとごとながら、やっぱり歯がゆい

てか、反省してるんだろうから
罪を憎んでひとを憎まないでいて欲しい

たかだか酒やタバコに
そのひとの人生を変えてしまうほどの
意味や価値や拘束力なんて無いだろ?
酔っ払ってそんなこと
真顔で考えてるフリをして
僕は遊び疲れて
路上ででっかい声で歌っている
どこへゆくつもりか知らないが
これもちょっと犯罪なのかなぁ
どへたな、音痴な、騒音罪?

>絶対に、左にも、右にも、曲がらない、
>ただ、まっすぐに、曲がるんだ

そんな悲しい歌を
でっかい声で歌っているんだ
どんどんとあたまから離れる幸福が
この夜をそんなものだと諦めさせてくれる

僕はただ遊び疲れて夜を歩くのだ
ただでっかい声で悲しみを歌ってゆくのだ
振り返らずにそのままの顔で歌ってゆくのだ
忘れたいことを
忘れられるなんてそんな
都合のいい狂気なんて
どこにも無いんだから

この街の夜の
平均台をこわごわと歩きながら
あの悲しいおんなのひとのことを
想い浮かべている

梅雨が終わり
オリンピックが始まる夏に
かつて死んでもかまわない目にあった僕と
死にたくなるほどの目にあったあのひとと

心の導火線はいつも
いつ爆発してもおかしくないことを
知っているから
僕は目にいっぱいの光りを溜めて
ただもうでっかい声で歌っているんだ










自由詩 オリンピック前の満月の夜の歌 Copyright 秋葉竹 2024-07-22 21:00:34
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