レイモンド・チャンドラーの猫
中田満帆



 レイモンド・チャンドラーの猫はタケというなまえだったのだが、
 来訪するアメリカ人たちの発音によってタキとゆがめられ、
 図らずも、bamboo から water fall へと変身を遂げた
 われわれはなにかを誤解すること、
 おもいちがうことによって、
 世界というものの真に近づくのである
          
 『イギリスの夏』──午後は長い
 永遠だとジョン・パリンドンはおもう
 それはまさにイギリス人とおなじくつづくのだ
 「アメリカ人特有の咽頭音ってやつがぶり返して来たのさ」とかれはいう、
 「長い冬眠から醒めてね」って
          
 どこにもトポスを持てない、
 われわれの世代
 悲しい一撃を求める孤独の果てで
 われわれはきみをもういちど抱きしめたい
 われわれは猫のなまえのように変容するなにかでしかないのだから。



自由詩 レイモンド・チャンドラーの猫 Copyright 中田満帆 2024-07-22 15:41:19
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