東の海辺から
嘉野千尋



  打ち寄せる波の数をかぞえながら、
  そのかたわらで
  ぼんやりとあなたのことを想ってみたの
  砂に書いた手紙は、
  しだいに波に攫われて消え
  そんな風に、
  想いは儚くなっていくのかしらなんて
  そんなことを想ったりしながら



  東の海辺から、あなたを長い間想っていたわ
  水平線を遥かに眺めるときにだけ
  わたしはただ独り寂しさの中にいることができた
  変りゆく空と海とを見ていたわ
  あなたの面影があまりにも遠くて
  ほんの少しだけ涙が流れたけれど
  浜辺に寄る波の数をかぞえながら、
  移ろう季節を見送っていたの



  わたしの足元から伸びた影だけが、
  ずっと寄り添っていたわ、あの夏の日も
  夜になって、またひとりぼっちになったけれど
  それでもかまわなかったの
  悲しいことなんて、本当は何ひとつなかった
  悲しいのかもしれないと、ぼんやり思っただけで
  潮が満ちて、わたしの膝下を濡らしたけれど
  わたしを誘いはしなかった
  ただわたしは東の海辺で
  あなたのことを想っていたの



  わたしは波の数をかぞえていたわ
  悲しいことなんて何ひとつなかった
  あなたがそばにいないことすら
  悲しいことではなかったの
  ただ寂しいとぼんやり想ったわ
  あぁ、また
  東の海辺から
  あなたのいない一日が始まるのね 






自由詩 東の海辺から Copyright 嘉野千尋 2005-05-21 15:55:40
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