水へ還る
塔野夏子
光の骨をなぞる指のことを もう思い出せない
言葉を思いかえすほどに
少しずつずれて嘘になってゆく
そのグラデーションをせめて美しく
夕映えに織り込んで
待っているうちに
身体は闇の鱗で覆われてしまった
それでもまだ
二人称を選びかねながら
もう思い出せない
約束がほんとうにあったのかすら
少しずつずれて
すっかり嘘になってしまった夕映えは
夜に溶けてしまった
その底にある
重い水へ
闇の鱗に覆われた身体で
滑り込む
朝になれば多分
砕けた光の骨が重い水面へと降り注ぐ
けれどもう思い出せない すべての二人称を