水精Ⅱ
本田憲嵩


日々の蓄積された労働によって、もうすっかりとひび割れて、枯れきってしまった。そんな心の大地の奥底から少しずつ滲みでてくる、君という存在を知っている、ボクの中から生じられた、補おうとする水なのか。それは滾々とそのひび割れの底から独りでに湧き出てきて、その体積を徐々に増しながら拡がってゆき、やがてあたり一面をとても澄みきった青い湖面へとボクの中を染めあげる。君はまるでその青い世界の中心点に立っているかのようで、まるで月光に晒されて仄かに発光しているかのような、細ながい乳白色のからだ、そんな君のからだと水面を介して、とても涼しい夜の風が、とても穏やかにとても甘やかにかおり漂ってくる。その脚部まで長い頭髪は、この夜の世界に直接接続されているかのようにとても長くて、まるで夜の闇を直接注入されているかのようにとても黒い。やがて微笑みかける朱色の花のようなくちびる、水のせせらぎの癒しにも似た音色で、やさしい君はあまやかな声の中に居た。
――蛇口が独りでにひねられて、階下の台所から水の流れる音が聞こえる。




自由詩 水精Ⅱ Copyright 本田憲嵩 2024-06-16 01:25:56
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