悪魔
リリー

 アテネの丘から
 陽の落ちるのを眺めた人
 暖かい心がある
 鋭い頭脳がある
 広い度量がある
 だが そのどれよりも弱々しい男の魂が
 彼自身を求めている時
 かたい指がある
 細い指がある
 黒い指がある
 それらは消えてゆくべきなのだ

 彼は かたい鎖に身を縛られたまま
 やはり漂い始めていた
 
 名残おしい声をかすかにふるわせ夜が明けかけた
 そうだ
 まさに夜が明けて来た

 廃れ果てた庭の片隅に
 花の色は 褪せもせず
 日輪と金の歯車が重なって
 とめどもなくまわりつづけ
 思わず目をつむった彼の胸をギリギリ締めあげる

 男は天から顔を背けたまま
 からからと鳴る白骨となっていた



自由詩 悪魔 Copyright リリー 2024-06-13 20:42:42
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