なるほどクン
アラガイs
秀才という彼は字義通りに成績もよかった。
しかもお馬鹿な僕たちから見れば身なりもキチンとして、大人媚て立派に見えるから余計に鼻につく。
そして何を聞いても応えても(なるほど、なるほど)と頷くばかりの発言は、まったく小馬鹿にされてるようであたまにきてしまう。
あるとき僕たち不良少年の三人で彼を体育館の脇に呼び出してやった。
「おい!おまえ、なんでいつもなるほどなんだよ?」
彼は眼鏡の底に困惑の表情を浮かべ、「なるほどなるほど…」とまたしきりに同じことをくり返し言おうとしていた。
「この野郎!」ついに脈の切れた反町が彼の襟首を掴んで一発頬を殴りつけた。
「あ~痛い~、なるほどなるほどなるほど…」彼は鼻血を垂らしながら涙声で呟いた。
その声があまりにも奇妙なので僕と田中がすぐに止めに入った。 「おい、もう止めとけ…」
「あの… あのですね…」 驚いたことか、なるほどクンがはじめて何かを説明しようとしているらしい。
「実は…実は、なるほど、という言葉の裏にはですね……実はよくわからない、という意味がこめられているんですよ。 だから…だからですよ、わかったふりをしているんです。 それから…使い分けも…」 何?使い分けをしてるのかこいつ。
「本当にわからないとき…また目上の人に際しての、負けない相槌の、なるほど、と………目下の人間に対しての打ち勝つ楔の、なるほど……と、そのう、二通りあるんです… 」
「へえ~」思ったとおりの如何様クンは気の弱いただ賢く見せたいだけの湿気たカードのようだった。「なんだかな~話しを聞けばこいつも僕らと変わりゃしないぜ」、「 、ハハハ… なるほどな…なるほどなるほど、アハハァ、なるほどかあ……」 僕と反町と田中の三人は、もう一人のカードの顔を見合いながら笑っていた。