文豪の面影
藤原絵理子

「自分を信じなさい」


そう言った詩人は
認知症になって
譫妄の森の小径の彼方に光を見て
まだあどけなさを顎に残した少女に恋をした


グループホームなどなかった時代
煙突の底から見上げる
丸い青空に両手を拡げて
少年になれたストーカー


若者ことばが不気味な老人
洗いざらしのジーンズと
真っ白なシャツに醤油のしみが痛い
エベレストにはゴミと糞便


ストーカーとミサイルなら
どちらも怖い
ストーカーと爆弾ドローンなら
こっそりした分ドローンかな


クローズアップは悲劇でも
ロングショットなら喜劇
ほんとうのことには
笑うしかない


自由詩 文豪の面影 Copyright 藤原絵理子 2024-03-29 21:25:56
notebook Home 戻る  過去 未来