雨色の断片
本木はじめ
降り立った夏の停車場せみたちの鳴き声拍手喝采のごと
実家へと歩く田園風景のさびしきひとりと描かれる夜
秘密基地としての廃屋いまはもう月光だけの棲み家となりて
失った記憶としての廃屋の扉がふたたび開かれる夏
踏み込んだ廃墟に射し込むきらきらと光としてのきみのまぼろし
幸福の色は白だと言うきみのひとみの奥に舞う黒アゲハ
まぼろしをかき消す為に塗り潰す鏡に映るふたつの眼
ぼくはもう変わりたくない変わらないはずの廃墟に降り注ぐ雨
深夜から降りつづけている五月雨に濡れる廃墟の折れた雨傘
廃屋の朽ちた畳に梔子のしづかにひらく傷口のごと
ばらばらの柱時計を組み立てるときも過ぎ行く時の病身
振り返るあなたに話しかけようとすれば果て無き畳の無言
この先の約束すべて投げ出して破けた夜空の傷口を縫う
一片のひかり射し込む深海のようなきみとの思い出の夏
気が付けばひとり寝ていた停車場のベンチに相合傘のぼくたち