雨色の断片
本木はじめ

降り立った夏の停車場せみたちの鳴き声拍手喝采のごと


実家へと歩く田園風景のさびしきひとりと描かれる夜


秘密基地としての廃屋いまはもう月光だけの棲み家となりて


失った記憶としての廃屋の扉がふたたび開かれる夏


踏み込んだ廃墟に射し込むきらきらと光としてのきみのまぼろし


幸福の色は白だと言うきみのひとみの奥に舞う黒アゲハ


まぼろしをかき消す為に塗り潰す鏡に映るふたつのまなこ


ぼくはもう変わりたくない変わらないはずの廃墟に降り注ぐ雨


深夜から降りつづけている五月雨に濡れる廃墟の折れた雨傘


廃屋の朽ちた畳に梔子のしづかにひらく傷口のごと


ばらばらの柱時計を組み立てるときも過ぎ行く時の病身


振り返るあなたに話しかけようとすれば果て無き畳の無言


この先の約束すべて投げ出して破けた夜空の傷口を縫う


一片のひかり射し込む深海のようなきみとの思い出の夏


気が付けばひとり寝ていた停車場のベンチに相合傘のぼくたち




短歌 雨色の断片 Copyright 本木はじめ 2005-05-18 23:16:06
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