海(2006)
中田満帆



 午前0時も半ばを過ぎて ヨット・ハーバーの周りには 黒い潮風と引き揚げられた古ボートが眠っている 白くぼやりと浮かぶのは 疲れ切って萎えた帆

 その白さに小指ほどの言葉を当てはめながら歩く ただ来てしまったから歩く なにひとつ意向を持たず歩く 陰が歩行者を支え 時折突き崩し 数え切れない羞恥にきつく胸を捩らせる

 あれはいったいだれだろうか 酒に酔ってふらついている男は 灯台の裏手にふかく沈んでいく 帰れないのだ 夜風が足につつかかる

 たったいま午前一時を過ぎ 港のまえには黒い車が停まっている 朝を待って眠る また酒を呑んでしまったのだ 海のもっとも黒い部位 あそこへ飛び込めば心臓も止まるだろう



自由詩 海(2006) Copyright 中田満帆 2024-02-28 14:02:50
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