小ぬか雨
花形新次

遠くで声がした
春を待つ小ぬか雨にも
かき消されそうな
小さな声がした
耳を澄ましただけでは
決して聞き取れない
心を声のするほうに向け
全開にしなければ
聞き取れないような声がした

「生きていることに
意味があるのか」
と問いかける声だった

それは誰にも分からない
と心の中で唱えた

12月に兄が死んだ
もっと話をしておきたかった
ビートルズの新曲のことやら
僕の好きな青い馬の将来のことなど
そんなはなしを
何とはなしにできるのは
兄だけだったから

突然の死は
悲しみを置き去りにして
手続きを優先させる

少し落ち着いたから
そんな声がしたのかなと思う

「生きていることに
意味があるのか」

それは誰にも分からない
と心の中で唱えた

けれど
兄の生は
僕にはとても大切な
意味があったと
答え直したいと
思っている







自由詩 小ぬか雨 Copyright 花形新次 2024-02-24 17:21:33
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