のらねこ物語 其の十八「金魚の掛け軸」(三)
リリー

 「深川にはさ、ふしぎな話がたしかにあるのねえ…。」

 おりんより早く湯屋から店に戻った おゆう
 正座して部屋の隅の小さな衣装箱から
 昨日、着物の下へしまい込まれた掛け軸を
 掴み取り 巻緒をほどき始める

 好奇心旺盛なおゆう
 「えっ!ええッ?」
 本紙を眺めて声を上げる
 たしか昨晩、向かい合っていた二匹は
 並んで描かれているのだ

 そんなはずはない!
 さすがのおゆうも掛け軸を丸めた
 その時、ふと
 これを描いた御隠居の言葉を思い出す

  (清吉さん、おりんさん、この掛け軸はきっと
   あなた達の道を開く力になるでしょう。)

 おゆうは煎餅布団を敷くと布団に入り
 後から女中部屋に上がって来た おりんに言ってみた
 「あのさ、あの衣装箱の掛け軸、…。
  旦那様と奥様にお話しして、お見せしてみない?」

 翌日 昼を回って
 旦那様のお部屋へお茶をお持ちした おゆうと
 並んでお話ししてみる おりん

 「これこれ!お前たち、主人のわしを揶揄うでないぞ。
  そんな事、あるわけなかろう!」
 頭から相手にされなかった

 すると廊下で たまたま立ち聞きをした奥様は
 「あなた、でもちょっとこわくて面白い話じゃありませんこと?」
 試しに居間へ掛け軸を吊るしてみたらどうか
 という事になったのだ。

 


自由詩 のらねこ物語 其の十八「金魚の掛け軸」(三) Copyright リリー 2024-02-19 10:32:45
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