助手席に犬を乗せる
そらの珊瑚

久しぶりに洗車する
マスカラが涙で落ちたような数本の薄汚れが
泡とともにコンクリートへ流れていった
この数日
見て見ぬふりをしていたものに決着をつけてほっとする
助手席に乗せた犬は真顔で少し緊張している
いつものことだ
口から垂らすよだれのためにバスタオルは装着済み
思う存分垂らしたらいい
小さな旅はゆっくり行くに限る
西湘バイパスを降り やがて松並木にさしかかり
少し開けた窓から
潮の香りがただよってくる
冬はいいね
春へと向かっている
ちょうどいいまぶしさ具合だ
冬のひざしが犬にまとわりつけば
彼女を神々しい獣に変える
太古、人の隣で生きることを選んだ生き物
よだれはやがて名もない湖になり
愛しさは揺れるこの小舟だ
長い旅路もまたゆっくり行くに限る


自由詩 助手席に犬を乗せる Copyright そらの珊瑚 2024-02-10 12:29:25
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