メモ
はるな

すこんと抜ければよかったものを、しぶといかさぶたみたいにしがみついてきたない。そういう蓋、風向きでいくらでも変わる。わあわあ言いながら、生活していかなければならないとおもったから。自分の足で立って、立ってるだけじゃなくて歩いていかないといけないと思ったから。世界とわたりあわなければならないと思ったから。だから蓋を開けた、それでそれからずっと動悸がおさまらない。
かんたんな数字もなかなかおぼえられないで、人の顏ももちろん覚えられないで、でも電話をとると嘘みたいに言葉が出てくるんだけど、切った瞬間にはもうなにを出したか覚えてない。頭をしぼるみたいにして、線だらけのメモ帳から、情報をつなぎあわせてシートに書き込むとぐったりするし、誰だったんだろう?向こう側もこちら側も、両方もう知らない人だよ。そうじゃなくていいんだよとか言うな、それでいいんだよとも言うな、何も見ないでくれ、わたしの背骨のゆがんだところも。両方から声が入ってくる。けれども、何もたまらない。うまく覚えてないで、賞味期限切れが増えていく。冷蔵庫のものを、ぱん、ぱんと捨てながら、明日はもっとうまくやろうと思う。今日はじゅうぶんうまくできた。だから眠ってしまって、やめよう、と思うと、眠れずに、朝は、つめたくわたしを迎え入れる。


散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2024-01-29 14:22:24
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