魔女
医ヰ嶋蠱毒

微かな痙攣

君のとびきりの接吻が一匹の柔らかい死體人形に稲妻を給餌する
雷鳴は心臓と右肺に秘匿され禁域の嶺にて過熱した母胎へ

再誕を迎える畸形の孖が掌を繋ぐように嘗て彼女等は呪詛であったが
いまや驟雨に融け降り頻る獣血の樋を流れる様に等しく
液化し、木桶に満たされ、狩人の義肢を浸すばかりの雛の魂魄

背理せよ、羽搏きが聴こえているうちに君は人間を辞めたのだろう?
微かな痙攣

おのず青銅の卵殻を喰らい憂鬱の底でセロを奏でる
柔らかい死體人形の慟哭は
糜爛に群がる黒蟻の毒に酩酊し破調し、熱傷を負う恥部の所在を明かす
皓い痩身の胸に浮かんだ湶に沿うかたちで丁重に播かれた種字を発音せよ

其は崇拝であった、其は力であった、其は一幅の絵画であった
微かな痙攣

知恵の果実に寄生する希臘の警句が偽天使の唇に反芻されるあいだ
君は幾艘目かの葦舟を深海へ流し
気怠と憂鬱の濁流の裡に何一つとして赦されることはないのだと
真理の扉を担保に賜る潰された咽喉で断末魔を上げるから

苦悶の梨と串刺し、ユダの揺籠、おこのみで
微かな痙攣

黒衣の彼女等が焼身を図るとき、柔かい死體人形の首に断頭台の刃が落ちる
まるで笑劇の幕引きのように失語症の少女の瞼を固く縫い合せ
顕現する者の名は大八洲の聲、その屍より発せられるのか


自由詩 魔女 Copyright 医ヰ嶋蠱毒 2024-01-06 15:01:31
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