引き出し

どうせなら一度くらい殴っておくんだった
そうじゃなければ愛しているとでも言っておけばよかった
見上げたり見下ろしたり
飽きもせずよくそんな遊びを続けていたもので
今になって思い返してみれば 何でもない事だったのか

彼が、彼女が、と当然のごとく繰り返したけれど
その彼も彼女も今はどこへやらで
鼻で笑ってしまうくらい子どもじみた馴れ合いさえ
それでも そのうち忘れるんだろう きっと

手に入ったものなんて数えるほどもありはしない
なんだかあまりに曖昧で 題しようにもできずにいるくらいで
それでもただ漠然と 少しくらいとって置いてもいいだろうと思いながら
いわゆる「引き出し」にしまい込んでいる
かすかな光が漏れている

いつか取り出して眺めるんだろうか こんな
それとも捨てちまえばいいのか こんな
十年先 二十年先なんて到底計り知れなくて
そこへ辿り着く日が待ち遠しいというわけでもない

いつか取り出して眺めるんだろうか
一体どんな目をして

その日が待ち遠しいというわけでもない
そのうち忘れるんだろう きっと


自由詩 引き出し Copyright  2005-05-17 00:21:17
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