合成写真と判明した囚われの宇宙人
板谷みきょう

慌ただしい年の瀬に
同行支援の依頼がきた

入院先は山裾にある個人病院だったはずが
いつのまにか医療法人化されて
有料駐車場付きの
大きな心臓循環器疾患専門の病院となっていた

四十歳代の男性の入院準備をして
手続きを済ませ
玄関口を通過した時に
足を引き摺るように歩くボクの様を見て
総合案内窓口の女性が
「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた

今年に入って上下肢の痺れや
痛みに悩まされ続けて
数年前から通院していた
整形外科で
腰椎と頸椎のヘルニアと
両膝の半月板損傷の悪化を
指摘され手術を勧められていたのだもの

「ありがとうございます。」と答えて
車を駐車している駐車場に向かい
今年は雪が少なく
冬眠しないクマのニュースのことを
思い出していた

…が

つるつるに光る氷の道に
滑った瞬間

ゴン!!!!!

後頭部を
したたかに打ち付け
仰向けに
青く澄み渡った空を見上げていた

息も出来ず
動けないで暫く
そのままのボクに
年配の女性が飛んできた

首からネームプレートを下げてるから
何処かの高齢者施設のヘルパーらしい

「お・じ・い・ち・ゃ・ん!大丈夫?」

えっ!?
おじいちゃんって

古希に近いのだから
間違いではないけれど

だがしかし

まだまだ
心は少年のままなのだよ

総合案内の女性も駆けつけ
年配のヘルパーさん

「私、転ぶのを見てたんですが
すごい勢いで後ろにそっくり返るように転んで
…強く頭を打ってます。」

総合案内の女性に説明しながら
二人で両腕をつかみ
そうして
立ち上がらせてくれた

それから
「病院に戻りますか?」と尋ねられた

あぁ。そうか。

病院から出てきたから
通院している病気の
お爺さんと思われてるんだ

「いえ、結構です。
そこに車があるので。」と
丁寧にお断りすると

二人して
車まで連れて行ってくれたが
その時のボクは
トレンチコート姿の諜報部員二人に
手を引かれている
「捕らわれた宇宙人」という
モノクロ写真そのものだった


自由詩 合成写真と判明した囚われの宇宙人 Copyright 板谷みきょう 2023-12-26 11:50:21
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