楡と扉
藤丘 香子
中心へ向って途絶えない無数の
緑の中に駈け寄って
眼の後ろで呼ばれた光は
しだいに
向かい合わせた最後の場所で
塵に変わりゆく扉に刻まれても
痛みのオウトツを識らない
薄まらない
緑を縁取る蕾の調べが
細い梢の先から
その全てで春を歌い
葉擦れを呼ぶ
降り注ぎ
弾け飛び
其処彼処の呼吸は草原を跳ね
空を仰ぎて
一つの瞬きの後に
遠く過ぎて往き
菜の花の傾きから零れた音は
微かな反響が浮き上がった処で
揺れて
振り向いてみせる
爪先の向いている
何かしらの甘酸っぱい
あの
臆病で直向きな薫りがする中へ
少しの風の日に
声を掛けた真昼のように