ブコウスキーの朗読
中田満帆



   for an album "Radio Bukowski" by Guilherme Lucas


 え?
 なんだって?
 おれは──英語がわからない。
 ね、──そうだっていったろ?
 聞えるか?
 なら水をくれ、
 水でいい、
 ふつうの水でいい、
 炭酸水でも、
 天然水でもない、
 水道水に氷だ
 氷はなくたっていい
 だから、
 水でいいって、
 早くしてくれ
 水だよ
 つづり?
 そうか、
 ならw/a/t/e/r だ
 え?
 英語わからない
 ビールはいらない
 ほかの客とはおなじじゃない
 金はだす
 水をだして
 くれよ。
 だっておれは詩──人なんだよ。
 それであんたは何──人なんだ?
 くそっ、なんて熱い水なんだ!
 hot water musicだと?
 ふざけるな!
 夏はきらいだんだよ。
 え?
 ニホンゴワカラナイって?
 オレニモワカラナイヨ
 水銀色した車が、
 こっちに来るぞ。
 まるで、
 自由を失った、
 蛙みたいだね
 おれは夜、
 いつも、
 かれの声を聴いてるよ
 すると落ち着く
 いままでにあったすべてを英訳することはできない
 いままに書いた詩をすべて英訳することはできない
 だれかが叫んでる
 男の声──「カモシカを救え!」
 だっておれは詩──人、
 だってかれは死──人、 
 英語がわからない
 だのにかれの朗読を聴く
 そして夜の足もとが覚束なくなった頃合い、
 おれはもうひとりのおれとかれについて語っているわけさ
 え?
 なんだって?
 おれは──日本語がわからない。  


自由詩 ブコウスキーの朗読 Copyright 中田満帆 2023-11-07 10:30:24
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