旅立ちの日
そらの珊瑚

自分のために、自分のためだけに
この海を行け
その声をよすがに航海に出た
凪いでいる海は退屈でしかなく
荒れ狂う海に対峙している季節こそ
わたしの命は踊っていた

そうやっていくつもの年月を
乗り越えてきた
ある朝
櫂の先をつかむ手があった
いつもなら気にも留めず振り払うところだが
引き上げる気になったのは
ほんのきまぐれか、
それともなにか「予感」があったのかもしれない
小さな男の子であった
溺れていたのかと思ったらそう弱っている気配もなく
甲板の上にちょこんと座り
まぶしそうに空を見上げている

太陽は永遠に近いところで燃えて
波は永遠ではないにしろ謳う

ルルルルル
空耳がやってきたのを合図に
わたしは命の洗濯をした
雨水を溜めて作った貴重な真水で洗われたそれは
案外軽くてすぐ乾き
生まれたての帆のようにして
はためき
次のうつわを探して旅立っていった

きれいだね、と男の子が笑った

自分のためだけに、この海を行け




自由詩 旅立ちの日 Copyright そらの珊瑚 2023-10-06 11:52:23
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