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ホロウ・シカエルボク


室外機のうねりのようなノイズが脳髄をずっと拡販している、まるで呼吸しているみたいなそのリズムで俺は灰色の影法師が踊り続ける幻を見る、真夏の太陽の下に居ても曇天が続いているような…動乱、人生はそいつと向き合ったものだけが先に進むことが出来る、かすれた喉が時々泣いているような音を立てて、靴底が踏み荒らした砂場にはなんの手応えも無い、無駄を排除することが美徳なんだって?冗談じゃない、一生などほとんど無駄なもので出来ているのだ、ものを持たない暮らしなど見晴らしがいいだけで何も生み出すことは出来ない、無駄を恐れるな、無駄の中に飛び込まなければ、何が無駄じゃないのかってこともわかりはしないのさ、もう使われていない公衆便所のトイレットペーパーを引っ張り出して、同じリズムをずっと書きつける、これは最後まで書き切ったら「大」のレバーで流されてしまうものなのさ、だけどもしも誰かがこの紙を見ることがあるとすれば、そいつはずっとその紙を見たことを覚えているだろう…空間と方法、それとイズム、これは大事な話なのさ―俺はすべての個室のペーパーに詩を書き、元通りに巻いて、三角に折ってセットし直した、それでなにか、とても重要な任務を遂行した気分になった、だけどそれは実質、なんの意味も持ってはいないのだ、しいて語るべきことがあるとするならば、それを休むことなく続けた集中力は褒められてもいいだろう―それぐらいのことだ、だけど何をしようが、意味のあることなどそんなにありはしない、連続する無駄だって、俺はずっと言ってる、それが伝わるかどうかなんて話はどうでもいい、それはまた別の問題だ、だって、それは俺以外の誰かのことになるのだもの…俺は公衆便所を出て、ポケットからチョークを取り出し、地面にジグザグを描いていく、連続する模様、連続する模様はあらゆる日常を連想させる、あるいはあらゆる日常を表現している、思考を持たない者の日常は限定されたパターンのもとに実行される、限定されたパターン、至極単純なパターン、いつまでも描き足される、単一な連続する模様は一見美しいものに見える、だから成功しているように見える、わかるか?でもそこに自我や思考は少しも存在してはいないのだ―敷地の半分を使ってジグザグを描き終えると、靴底で踏み荒らす、単一なパターンに初めて靴底が触れる瞬間、そいつは思考になる、踏み荒らす人間の自我が刻まれる、あらゆる表現の根源とはそういうものなのだ、カウンターにならないカルチャーなど存在しない、それは本当でなければならないはずなんだ、だけど―決まった形式の中で描くことだけを重視するやつは大勢居る、違うぜ、それは、過去をなぞり続けているのと同じことだ、よくある線をどうしてわざわざもう一度引かなければならないのか?誰かが歩いた道をもう一度歩いて、自分自身の身体はいったい何を得るというのだ…?パターンに染まらなければ安心出来ない連中が居る、そこにだってもちろん意義はあるだろう、継続という意味でなら、確かになにかしらの意味はあるのかもしれない、だがしかし、だがしかし、継続というのはいったいなんだ?それは形式をなぞり続けるというだけのことなのか…?そんな筈はない、本当の意味での継続とは、そこに込められているものが古くならないように、錆びないように、あれこれと手を尽くすということだろう、その答えについてはすでに述べている―カウンターだ―詩人が詩を書くとき、無数のモチーフについて書いているわけではない、そこにあるのは漠然としたひとつの同じビジョンだ、それが語り続けている、それをいかに書き続けるのか、あらゆる面を見て、あらゆる面を書いて、角度を変えて、イメージを添えて、見直して…そうしてずっとそのことについて書き続けるわけだ、俺の言ってることわかるかい?そんなに難しい話じゃないはずだ、表現をするということは、表現するべきなにかが内にあるということなんだ、インプットではない、いつだってアウトプットなんだ、表現するという点においては―ではインプットは?それ以外のすべてということになる…わかりやすい、理路整然としたものに価値を求めるのはそろそろ止めた方がいい、それは非常に良質の自己満足でしかないのだ、常に全力で臨んで、次の段階へと駒を進めるのだ、それは自分自身の根幹により近づこうとする試みだ、およそ日常では辿り着けない領域での思考のプロセスを、狂気に惑わされることなく受け止めるためのツールだ、室外機はまだうねり続けている、汗に溶けるような暑い夏はもう少し続くだろう、二四時間営業のハンバーガーショップ、さすがに人影まばらな客席で、優し過ぎるエアコンの設定に震えながら焼け焦げた心を見ている、ストローからダイブしたアイスコーヒーが喉を塗り潰していく、叫び出したい衝動に駆られるけれどそれはきっとロクな詩になりはしないだろう、ミルクポーションとシロップをひとつずつ全部入れる、化合物の夢たち、LEDの無機質な灯りとヒットソングの中で、公衆便所に書きつけたものたちは遺物と成り果てて行く…。



自由詩 Growth Copyright ホロウ・シカエルボク 2023-09-13 21:47:02
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