夏空のオペラ
嘉野千尋
暮れていく夏空に似た恋をして大人になったつもりでいたの
言わないでほんとはもうね気付いてるあなたは優しいだから辛い
どうしても言えない言葉を胸に抱きあなたとわたし見つめあったわ
太陽に恋した日々は過ぎ去れどそれでもこの身を熱が焦がして
別れ際あなたがいちど手をふれば陽炎揺らす風が吹くのよ
影だけを残してあなた夕暮れの欠片を抱いて家路を急ぐ
わたしたち長い夢を見てたのね目覚めて気付く涙のような
美しいものを美しいと言えるあなたを恨むわたしがいたわ
夕暮れは一つの恋が終わる時あなたとわたしの別れのように
黄昏にわたしの名前を訊かないであなたはなにも知らなくていい
さようなら茜の空に手をふった振り返らないあなたの代わりに
群青の空には星が光っても祈りの言葉を誰も知らず
夕暮れをオペラグラスで覗き見てそれから泣いたたったひとりで