直接介助デビュー
板谷みきょう

手術室勤務になった時
外回りから器械出しのことを
先輩の望月さんや山崎さんの付いて
実践の中で教わった

器械の準備が執刀医によって違うことや
手術の進行状況や執刀医の動きを見て
使う器具を予測し先読みし
正確かつ迅速に器械を手渡すことを
徹底的に教え込まれたものだ

そして
直接介助デビューの日
サブに望月さんが付いてくれ
外回りは山崎さんが
付いてくれていた

執刀医は北大の医師だった
先に
「あの先生は一々
必要な器具を口にしないから
手を出したら進み具合を見て
必要なモノを渡すように
頑張ってね。」
そうアドバイスを貰って
開頭術が始まった

万事上手く進んでいると
思っていたのに
洗浄用の生食を
スポイトに入れ渡した

「なんだ?生食ぬる過ぎだっ!」

そう医師が言うと
生理食塩水を容れている円形ステンレス容器の生食を
スポイトで吸ってから
術衣を着ているボクの胸元に
生食を吹き掛けた

「手を降ろせっ!交替しろっ!」

医師に怒鳴られ
望月さんに交替してから
隣接している滅菌消毒室に入り
ボクは泣いた

外回りの山崎さんが来て
「泣かないで。
早く、着替えてきなさい。
最初は、みんな同じなんだから。」
そう慰めてくれた

あんなに優しかった先輩の山崎さんは
それから
レントゲン技師と結婚したけど
結婚五年目を迎える前に自死した

原因も
理由も
ボクは知らない


自由詩 直接介助デビュー Copyright 板谷みきょう 2023-09-06 12:49:26
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