雲の披露宴Ⅱ
菊西 夕座

空のかなたで消し忘れたファンのように独楽がまわっている

地上から見れば小さな欠片のチカチカする煌めきでしかない

花嫁の消えたぬけがらの白い衣装が独楽の近くをたゆたって

さまよえるその肩に恋びとの死装束がそっと寄りそっていく

こうしてむすばれた主をもたない衣はどこまでもかろやかで

おおきな綿のようにふくらみながら繭の輪郭をもちはじめる

ふたりのむすばれを祝福するように独楽はまわり続けている

ときおり静電気の鞭がみえない速さで独楽をけしかけていく

あの独楽こそが佇立するわたしのくるおしい核なのであった

回想をやめさせてくれない鞭こそがわたしのいとおしい花嫁

繭のなかにはたくさんの電気が糸状菌のようにこまかく蠢き

つぎからつぎに生まれてはわたしの花嫁を新しくしならせる

はじき合うむすばれを拒絶しながら独楽はまわり続けている

地上からみれば小さな欠片のチカチカする煌めきでしかない

花嫁の消えたぬけがらの白い衣装がいつのまにかふえていく

壮大きわまる引き出物のように白いドレスがむやみに連なる

巨大な白いとり皿がひきのばされては千切れくばられていく

やわらかなその皿に曙光の送り火としてキャンドルがともる

家路にかえる鳩の群れからよこぎりざまに弔電をうけとると

空をおおう棺から青くかがやく透明な水が静かにぬけていき

風にまかせて泳ぐ繭からいっせいに距離が羽ばたき縮まって

あの独楽が別れの穴をふさぐ栓として胸の星になるのだった


自由詩 雲の披露宴Ⅱ Copyright 菊西 夕座 2023-09-03 11:23:35
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