眼鏡は明瞭 かければ 迷妄~死人がやっぱりふらついている~
菊西 夕座

               ―ハーバート・ウエストに―

いまでは はっきりと 聞こえる 書物の なかの 足音を
それは まさしく 死の 忍び足 
音なく しかし だからこそ 歴然と
ページを めくる 所作は 墓を あばく 愚行に かさなり
行から 行へと 掘れば 掘るほど
いやます 混迷 ふかまる 紊乱

「医がくせいは 夜ふけに 眼鏡を おいた
窓辺の 眼鏡と 満月が たがいを 照らした
いまや かけていた ものが 欠けた
おいた はずの 眼鏡を また かけていた
医がくせいは 書けていた たしかに ことわりを
かけていた ものは 老いて 欠けた
空に かけていた 道は 尽きて 満ちた
医がくせいは 老いない 新薬を おいた
ことわりは 個と割れ たがいを 食した
医がくせいは 胃が いがいがした
みずからの意が 意外だった ことに
慄然とした 以外は 医は 痛まなかった
老いない 新訳は わけを わけあたえた
かくして かけた ものは 鏡となった
すべてが 曇り 一切が はっきりした」

埋もれた 語句が どくどく あふれ
あらたな 服を きせろと せがむ
帰せよ 死人よ もといた 闇へ
去れよ 戯言 どくろの 獄へ
しかるに きせば かくも 死は かるく
きみら 無上の 妙なる 語人は
いまや 解かれた 闇夜の 蔵に
笑い どよめき うたい 浮かれ
うたたね おののき さわいで あそべ
きみら 空位の 綾かな 星よ
紡げ かたむき 倒れて たてよ
かくして 意味など 脱いでは さわげ
裂けよ ふところ 理性を 避けて
狂気を 逆せろ ふやせよ 酒代
本の 納屋から 駆けては とびだせ
崖を ころげて 丘を とびこえ
逆さま 至極に 空を 海へと
転じて 泳いで おぼれて 沈め
しずまれ 高まれ 鼓動の ちんもく
どうどう どうどう お馬よ とまれ
せいせい 動 動 重りよ 生まれよ
わたしを かくも 縛るは 書き物か
それとも 墓所たる 曙光の 黄泉ものか


自由詩 眼鏡は明瞭 かければ 迷妄~死人がやっぱりふらついている~ Copyright 菊西 夕座 2023-08-27 16:17:27
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