羊飼いの夜
大覚アキラ

おさなごも仔犬も猫もみな眠る
夜明けまえのしずけさのなか
辞書にのっていないことばで
この世界に祝福をあたえる

冷蔵庫の扉をひらくと
星のない夜の焚火みたいに
ささやかな光がキッチンにこぼれて
歩き疲れた旅人が傍に腰をおろす

ひときれのパン
コップ一杯のミルク

あなたは
遠い国の会ったこともない誰か

わたしは
ちいさな島国の名もない誰か

わたしたちは
辞書にのっていないことばで
誰も知らないうたを口ずさむ

ここには
銃声も悲鳴も届かないから

目をとじて
ちいさな青い花が
ゆっくりと開いていくところを
思い浮かべることができたら

おやすみなさい

あなたはもう
どこにだって行けるから


自由詩 羊飼いの夜 Copyright 大覚アキラ 2023-07-25 18:00:59
notebook Home 戻る  過去 未来