けさの夢
印あかり

もう見ることは無いと思っていた、
はっきりと思い出せなくなっていたあなたの横顔、
今こうして隣で金色の風を浴びて、
火のようにはためく髪と、
水底のような瞳が細められるのを見て、
どうしてこんなに美しい人をわたしは手離したのか、
二度と無い運命をどうして煩わしいと思ったのか、
心底馬鹿馬鹿しくて、
夢と知りつつあなたに笑いかけ、あなたも笑い返すものだから、

空は夜へと、朝へと、夜へと、
目眩く速度で変わり、それを怖いとも思わず、
「大丈夫いつか終わるものだから、
わたしは幸せと不幸を上手に食べわけられなかったけど、
いつも満たされていたから、」
たどたどしいあなたの言葉が、
藍色の雲を鮮烈に切り開き、夢は終わった。

けさは雨だった。




自由詩 けさの夢 Copyright 印あかり 2023-06-10 00:46:13
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