アカザ
そらの珊瑚

ホームセンターで
小さな紙袋に入った花の種を買い
土を入れたふかふかのプランターにまいた
ねずみ色の日々の傍らに
きれいな花を咲かせたかったのかもしれない

庭のひなたに置いたプランターに
毎日せっせと水をやる
青いジョーロは古いブリキ製で
水を入れると
がくりと重くなった

いつの間に
わたしの腕はこんなに弱くなってしまったのだろうか

毎日の水やりはささやかな日課
芽吹きを数えて頬がゆるんだ

伸びていく緑の葉は
さも健康そうに光を求め
繁々と増え
わたしは花の蕾を待っていた 

そんなある朝
「ねえ、それ、アカザだよね。なんでアカザなんか育ててんの?」と
母がいぶかしむようにわたしに聞く

アカザは道々や空き地に生える草
抜いても抜いてもまた生えてくる草
人の手など必要としない
自分が咲きたい場所で咲くのを選ぶ花

もとよりアカザの種を買った覚えはなかった

アカザを育てる珍妙な日々はあっけなく終わり
初夏が始まろうとしていた


 あれから何十年経っただろう
 なんの種を買ったのか
 今となっては覚えていない

 わたしは蕾を待っていた
 どんな花を咲かせたかったんだろう
 どんな花になりたかったんだろう



自由詩 アカザ Copyright そらの珊瑚 2023-06-07 12:57:13
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