ミニカ360
イオン

新潟県三条市にある
自動車博物館を訪ねたのは
展示車両に乗り込むことができるから

昭和の自動車に囲まれた僕の心は
小学生に戻っていた
これは横田先生の日産バイオレットだ
二瓶先生のブルーバードもある
運転席には座ったことがないから
歴史探偵の気持ちで乗り込むと
か細いハンドルと質素なメーターパネルが
あの時代の精一杯を物語る
そして手鏡ふたつのフェンダーミラー
前を見ながら後ろも見れた時代
あぁ、この運転席から先生は
僕らに向かい合っていたんだ

そして
猪俣先生の三菱ミニカ360
宇宙船のような形でドアが前から開く
スカートを履いた先生が
お尻から乗り込むのを
おもしろくて見ていた
ミニスカートではなかったが

猪俣先生は
児童の個性を活かす指導をするのに
フランクな人ではなかったので
親同士が宇宙人のようだと話していた
そしてミニカに乗せてと言っても
いつもやんわり断られた僕は
宇宙船にお尻から乗り込み
夕暮れの街にミニカが
飛び立つのを校庭で見送った

その宇宙船にお尻から乗り込む
洋式トイレの便座に座る感覚で
意外にも収まりが良い
このコックピットで僕は確信した
猪俣先生は宇宙から通っていたのだ
宇宙と行き来するには
ロケットを作るメーカーの
自動車でなければならなかったのだ


自由詩 ミニカ360 Copyright イオン 2023-06-03 11:56:20
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