CERN
本田憲嵩

CERNそれはちょうど赤い夕暮れのうつりこんだ道路の水溜まりだった。道路わきの草むらにはおそらく子供たちが忘れていったであろう白い野球ボール、水面にはちょうどあのときのCERNたしかにこんなあかい夕暮れで、たしか海の見える駐車場から発進してすぐのことだった。夕空のどこからか飛んできた白い隕石らしきものがぼくの宇宙船のボンネットへといきなり、ゴツン、とぶつかってきてCERNさきに宇宙船を発進させていたのはぼくの方だった。彼女の宇宙船のコックピットの前を通りすぎたときCERNたしかに彼女はまるで遠ざかる天体を見つめるかのようにこちらをじっと見つめていた。そうしてやがていまCERN踏切のおろされた警報音と電車の通過する擦過音がつめたい凪いだ風にのって聞こえてくる。あのときのCERN一連のできごとがなんども水面に映像としてくりかえし再生されてゆく。ぼくはCERN草むらからその白い衛星を拾い上げ、それを夕暮れの水溜まりへとCERN殴りつけるように投げ込んでみる。なぜならばLHC彼女は海の見える駐車場でおそらくはマルボルでも吸いながらCERN彼女の宇宙船のコックピットにまだいたはずなのだから。そのうわくちびるのうえ、ひとつの、ちいさな、ブラックホールを浮かべながら。
草むらから黒猫が道路へと歩みでてきてニャーと鳴く。CERN。



自由詩 CERN Copyright 本田憲嵩 2023-05-23 23:53:57
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