錯綜する思惑(十)
おぼろん

イリアス・ナディがその身を危険にさらしていたころ、
アイソニアの騎士もまた危険のなかに飛び込もうとしていた。
イリアスのいどころは分かった。しかし、彼女は苛烈な拷問にあっているではないか?
アイソニアの騎士は身震いしていた。

そのころには、クールラントの秘密機関であるオーバ・ニーチェについても、
ヨランの働きによってある程度の情報を手にしていた。
それによれば、オーバ・ニーチェは国のためであれば何でもするらしい。
では、イリアスを誘拐することによって、彼らは何の益があるのか?

アイソニアの騎士は迷った。このまま、イリアスが捕らわれている
バルケスの塔に踏み込んでいくべきかどうか。──だが、浅慮は禁物である。
イリアスを生かしたまま、いや、傷一つつけないまま取り返すにはどうすれば……

しかも、今は第二次ライランテ戦争が開戦した真っ最中である。
イリアスが政治的な取引の道具に使われないとも限らない。
「幼子に対して、我々大人たちの非道さはどうか?」アイソニアの騎士は歯噛みした。


自由詩 錯綜する思惑(十) Copyright おぼろん 2023-05-05 21:28:27
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クールラントの詩