PC周辺の憂鬱
墨晶

          雑文

 あれはどうしたものか。職場の至る場所にPCがある。個人用に貸与されてる者も多い。しかし使用する従業員のすべてがそれほどPCに詳しいわけでもない。
 よく1日中PCの前から離れず座っているリーダークラスの人物にも多いが1つのデスクトップに何重にもエクスプローラーが開かれていて、なにか報告や相談に行くと、エクスプローラーの上のヘリを掴んで上下左右に退かし始める。なにか書類を探しているらしいのだが、エクスプローラーを閉じたり新たに開いたり、と要するになにがどこの階層にあるのか全然わかっていないどころか、職場の体質なのか共有サーバーすら階層が整理されていなかったりするので、「これを普通だと思っているんだな」と絶望しながら只管リーダーが気の済むまで横で立って待つ他ない。
 大概、そのような人物のデスクトップは最小表示のアイコンでビッシリ埋め尽くされ、しかもそれらはショートカット(Macで云うエイリアス)ではなくて本書類だったりする。
 モニター2台使いの人物がいたので「へー、スゲーじゃん」と思っていたら、「1方のモニターがアイコンでいっぱいになっちゃったので2台にして貰った」とのことだった。・・・馬鹿じゃねーの。
 そう云った人物達のPCを時として使わせて貰うことがあり、本人の目を盗んでディレクトリを拝見させてもらうと、C:¥Users¥本人 以下のディレクトリがスッカラカンでいじった形跡もない。重要な書類はすべてデスクトップにある。よくこんな埋め尽くして目当てのファイルが探し出せるもんだ、と思っているとマウスをガチャガチャ動かし(マウスで騒音・・)ポインターをモニター上に彷徨わせ、あっちを開きこっちを開き「あっ、これだ」とかやっている。探さなくても良い環境にする気が更々無い。
 ルーティーンワークを限られたインターフェイスでこなしているだけならなにも問題はないのだが、よくわかっていない者と共有PCを使うとなると苛々することが多い。
 3台占有して作業する馬鹿野郎がいて、なにかと思えば1台のPCのモニターに1つの書類だけを夫々開き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・参照しながら人を殺しそうな目つきでバタバタなにかをやっている。なにか特別なプログラムを操作しているわけではない。わたしがその1台を使おうとすると血相変えて「いま触んないでください!」などと云うので無視して win+D でデスクトップを表示すると「うわあああああああ!」。書類を閉じたと思ったらしい。
 実のところこの手合いばっかりなので、マルチデスクトップにして「1番目の机は**さん、2番目の机は**さん、3番目はわたし、他の机はゲスト、と云う風に使って下さい。机の切り替えのショートカットキーはナンタラカンタラです」のような張り紙をした。
 完全にわたしは甘かった。パニックになってしまう連中がこれほど多いとは。win+tab でデスクトップ一覧、ctrl+win+左右矢印 でデスクトップ移動、これを覚えてくれないどころか、
「**さん! なんでこーゆーことするんですか!ってゆーかなんでこんなこと知ってるんですか!?」
 非難轟轟、四面楚歌、多勢に無勢なのだった。知ってちゃ悪いのか。

「なんでオレのデスクトップ上の書類勝手に閉じるんだよ」
「閉じてませんよぉぉぉ」
「今日このPCはオレとオマエしか使ってないんだからやったのはオマエしかいねーだろーがちゃんとショートカットキー覚えたのかよ教えただろ?」(わたしの喋り方は基本、「読点」がない)
「ボク、そーゆーの苦手なんですぅぅぅ」
「苦手だから覚えなくても良いと思ってんのか仕事なんだよこっちはオマエに迷惑してるんだ馬鹿あとオマエの喋り方気持ちわりいんだよ」

 五十近い、頭髪の薄いヘラヘラした妻子もある男の、職場での一人称が「ボク」・・なんだかな。まあこれは本稿のテーマから外れる余談なんだけど。
「アンタは何番目の机を使え」、って云ってるだけなんだけどねえ。ctrl+c 、ctrl+v くらいは知っているようなんだけど、「キーを3つ押さえる」、もうこれが拒否反応らしい。
 わたしにしても、なにもPCに詳しい訳じゃない。「便利で生産性が高いと思われるこんなやり方がありますよ」と云って、それを共有したいだけなんだが、エライ職位の人物ほど「ボクのわからないようなことするのはやめてくれないかな」などと云ってくる。

「もうボクたち『覚える』ことなんかしなくて良い身分なんだから!」

 思い出したが、Wi-Fi環境があるにも関わらず使っておらず、従業員間でのデータのやり取りをいちいちスティックメモリーに入れて地下1階と地下2階の事務所を往ったり来たりしている愚かな職場があった。
「社長さーなんでこんなことやってんの?」
「だってWi-Fiの設定なんかわかんないもーん」
「じゃあ繋げば良いのね」
 繋いだところ、あの楳図かずお先生が描くあの絶叫する人物のような形相で
「わあああああああああ!!やめろおお!もとにもどせええ!ウイルスがっ!ウイルスが入ってくるううううう!」と、大パニック。ケーブルだろうと無線だろうとウィルスのことなど別問題なのに。従業員間でデータのやり取りが楽になり、社長以外には好評だった。しかし、わたしも良い人間と云う訳ではない。どうも社内の業務がスムーズではないと感じていたので、わたしが各従業員がリアルタイムでなにをやっているのかわかる設定を社内のPCすべてに勝手に仕込んで置いた。当初利用するつもりはなかったが(あ、嘘です)、先の社長の取り乱し様がハンパでなかったんで、怪しむ気持ちがあった、故に夫々を覗いた。揃いも揃って全員真剣な表情で、社長はコリアンバーのホステスと1日中チャット、ある従業員は1日中FX、渉外担当のおばさん(旦那はオーストリア人)は mixi (やー、なーつかしーですねっ by とんねるず)の「国際結婚」と云うコミュニティの「外人旦那のナニはデカい?」と云うトピックに見入っていた。「あのー、**さん」と話しかけたら眼を吊り上げ「今じゃなきゃダメですかっ!?」。なんか外人旦那のチンポ問題が切実だったらしいよ。

 要するにエンジニアでも事務でもないのにPCから離れない連中はあんまり仕事してねーんだよなー、ってのがわたしの印象である。PCは、物理作業をしない為の口実として役に立っているようだ。「やってる感」と云うアレか。
 景気が悪い云々って聞いてるんだけど、みんな公然とサボってるんでしょう? こんな人たちに金払って雇って毎年昇給してるんでしょう? しがみついて喰い荒らしてるだけじゃん、と思う。会社に儲けなんかあるわけない。実のところ、正直終身雇用制が未だ存在しているとは思わなかった。竹中ナントカって云う髪真ん中分け(分け目がワイドになりつつある)の童顔のお爺さんは大っ嫌いだが、「仕事をしない社員を簡単に辞めさせられない日本の会社制度云々」の指摘は事実だと思う。なんでこんなのが永年勤続者なんだ?ってのが朝出社してから退社までPCの前で雑談をしている。パラダイスは存在していたのだ。
 ある特定の従業員達にPCを使わせているが故に事業所の「決定」や「処理」の体系的な「遅れ」や「ロス」を発生させているのではないか、とかなんとか思ったりするが、結論はない。ただ如何ともしがたい怒り的な烏賊寿司をイカロスの墜落になぞらえ提示したまでである。あー寿司喰いてえ。

追記:ペガッサ星人に次いでイカルス星人が好きです。あの4次元空間のインテリア、良いですよねえ。
 
 


散文(批評随筆小説等) PC周辺の憂鬱 Copyright 墨晶 2023-05-02 16:30:41
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