くらやみ祭り
たちばなまこと

昼下がり
あなたが汗を降らせて
春の風
ひよどりが笑う
日が出ているのに くらやみ祭り?
そう

日を見送ったまち
どぉぉん…
真っ白い麻のシャツ  灼けている手の甲
見つめても はにかんでも 握り直す手の平
どぉぉん…
御太鼓に驚いても 握り直す手の平
上気した人波の白波になって波打ってよろけて
どぉん どぉん どぉん
オー… ライ
どぉぉん…
胸板を押しつけられて
麻ごしに熱を上げる背中
やわらかい、と 火照る息が黒髪の頭皮に沁みわたる
やわらかい、と 二の腕を抱えて もう少しでも 前へ前へ 前へと

ほらほら
御輿が静静と
見える?
少ししめった金属音と けやきのお囃子 人の声
遠くへ旅する御太鼓が聞こえるだけで
見えないよ
灼けた両手が肋骨を掴んでかかげて
見える?
はずかしいよ
熱いのは 祭りも人もあなたも同じ
汗ばんで

  子どもみたいね からだばかり大人で
  荒ぶる芯がふたつ
  昇って
  ゆるんで

出逢えている人も 出逢う人も
くらやみではないくらやみで触れ合い 確かめ合って
それぞれのくらやみに混じり合う予感にうねる
担ぎ手が顔をゆがめて喧嘩して揉んで
荒っぽいなぁ
見えないよ
頭ひとつかがんで見せて
二の腕に埋まる指と 骨盤を撫でる手の平
風吹いてサテンのフレアーが太ももをさする
ほんとうだね
冷たかった耳が燃える
やわらかいのは 私のからだのどこでもなくて
こめかみにくちづける 厚いあなたの唇

旅の宿の神さまが 寝息をたてるころ
天照が声を上げるまでは
夜の風
くらやみに許された 小さな死に向かって
汗を降らす?
それはどうかな


自由詩 くらやみ祭り Copyright たちばなまこと 2005-05-11 08:38:58
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