手荷物
たもつ


手荷物を運んでいる途中
手荷物の無い手で触って欲しい、と人に言われ
代わりに国鉄時代の記念切符をあげた
質感が気に入ったようで
喜んで人は去っていった
遠くから連れてきた犬を飼い
笑っているだけの練習も新たに始めた
しばらく続くガードレールは何も喋らないけれど
時々側に人が立っていて
たまに座っていたりすると、それはまるで
珍しいことのように感じられた
もう少し身体も液体に近づくことができるはずなのに
(例えば切符を持って去っていった人のように)
やはり陽射しが温かい人工物の方へと
曖昧なまま惹かれていくのだった
河川改修事務所の二階の窓から手を振る工夫たちを見ていると
春が終わるのだな、と
言葉でも実感できる日がここ何日か続いている
今日も生きていて良かった
眠る前にそう思うけれど
生きていて良かった根拠を探すのに精一杯で
いつまでも眠ることができない



自由詩 手荷物 Copyright たもつ 2023-04-12 07:36:19
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