旧水門の星より
本田憲嵩


   1

水門の釣り人たちがいる
その長い長い棹を振りまわしながら
おのが鯉のぼりのように
まるで浮遊している
座布団の上に立っているかのようだ

   2

ついぞ一度も
開かれなかった
裏側となった
正面に回り込めば
とても
旧い
つねに日陰の
その錆びついた鉄扉
「岩保木水門」
という
見事な水茎
まるで身が引き締まるように
旧い

   3

いつのころか
道が出来上がって
シシャモの泳ぐ川へと繋がらない
其処で行なえば俄然罪に問われる
午後の陽が
金幕に悠々と寝そべっている
その眩い夢うつつをカヌーで引き裂いて
なんという
贅沢な
聖域

   4

その水面に映りこむ
輪郭の緊張が
綻んでゆく
日曜日の
夕景となって
休日は
あと一日もある
土曜日の
水精か

   5

先ほど轢きそうになった
帰りの狭い砂利道には
草叢から飛び出してきた
北キツネが
黄金色に寝そべって
こちらをじっと
見つめている



自由詩 旧水門の星より Copyright 本田憲嵩 2023-04-11 15:27:55
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