束の間のスニーカー
坂本瞳子

道端に落ちていた白いスニーカーは薄汚れていて紐がほどけていた
しかも右の足の方だけで左は見当たらなくって踵の部分が潰れていた
犬がどこかでこの靴を咥えて来てここに置いて行ってしまったのだろうか
これ以外にどんな場面を想像してみても納得のいく答えは見つからなかった
しかしながら犬が咥えて運んで来たスニーカーの靴紐がほどけるものだろうか
ちょうどいい具合に歯が牙のところがあたって紐がほどけたりするのだろうか
そんなところを想像してはみたけれどなんとも現実的には思えなかった
この靴の持ち主も困っているのではないだろうかと考えてみたりもした
靴が片方だけ手元に残っていたとしてもなんとも使いみちはないだろう
家の鍵を保管する専用の物入れにはなるかもしれない
土を入れて花を植えてもいいかもしれないとも思ってはみたけれど
この布製のスニーカーでは水を注ぐたびに漏れてしまうだろうと思われる
もしかしたら持ち主は怪我でもしていていまは左足の方だけ靴を履いているのかもしれない
そんなことまで想像してみたりしていたら一駅乗り過ごしてしまった


自由詩 束の間のスニーカー Copyright 坂本瞳子 2023-03-30 23:01:37
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