蛇の舌
リリー

 一時間ほど止まないかもしれない
 路面に跳ねる雨しぶき

 ショッピングセンター出入り口の側
 売り場フロアーから流れてくる冷気で落ち着き
 ふと 気付くと
 丸みのあるヒップラインの高さに目を
 奪われていた

 ニュートラルグレイのタイトスカートと
 サマーブラウスの白が
 マスクを着けている横顔を聡明に印象づける
 黒のヘアゴムですっきりと
 束ねられた髪がうなじの素肌へ眼を誘う
 
 手中のスマートフォンへ
 忙しげに指先を滑らせていた彼女
 コンパクトな黒のショルダーバッグから
 折りたたみ傘を取り出すと
 人だかりを抜けた

 急に ここにいることが
 つまらなくなってしまった

 それにしても
 繁吹き雨よ

 小走る女の
 細身な背の影が、一匹の
 カエルと化し呑み込まれてしまった



自由詩 蛇の舌 Copyright リリー 2023-03-12 18:51:45
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