ダンシング・フィンガーズ
まーつん

膿を垂れ流す虫歯が疼き
よく眠れない夜が明け
飯も食わずに布団の中で
丸まったまま

飛び去りかけた夢を
手繰り寄せようと目をつむるが
縄と編まれたお日様の光を
首に掛けられ
新たな一日へと
引きずり出される
土曜日の朝

何もしたくない、と思いながらも
ホットカーペットに胡坐をかき
靄のかかった目をパソコンに向ける
つまみ食いのお菓子のように、雑多な話題を
バイキング形式で並べるユーチューブ

ダウンタウンの古い音楽バラエティーを
何とはなしに、見る内に
窓から注ぐ陽射しが色あせていく

「生きる事は、動く事」、そんな意識が
なんかしろよ、と僕を急き立てる

とりあえず
枕元のギタースタンドから
テレキャスターのネックを掴んで
抱き寄せる

ペット禁止のアパートだから
猫は飼えない
アンプに繋がず生のまま
ユーチューブのチュートリアルを見ながら
エリオット・スミスをゆっくり鳴らしてみる

あの人のように、早くは弾けない
過負荷で脳の回路がショートしないように
メロディーをゆっくりと指先の神経に流し込む

美しいものに触れると
何故悲しくなるのだろう
それは多分、いつも彼等が
遠くにいるからだろう

その吐息が僕の頬に
感じられる時でさえ

左手の五本の指が、イ―マイナー・ナインスをたどたどしく抑える
人差し指はいつも、自分が主役だという顔をしている
5弦の2フレットを押さえるが、実は鳴らさない
1弦のレを押さえる中指と狭い空間を分け合って
この厄介なボジショニングを構成している
薬指は2弦のD、小指は4弦のF#
みんな、それぞれの役割がある

指板の上で踊る指
どんなに練習を重ねても
スポットライトには立てない

生きることを嫌う僕が
お前など、死んじまったらどうだ
と自分に毒づく僕が

スチールの弦をはじく
少しだけ空気を震わせてみる

時には、真夏でさえ冷たく感じられる
この世界の空気を


自由詩 ダンシング・フィンガーズ Copyright まーつん 2023-02-18 12:36:00
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