途中下車無効
佐々宝砂
僕の腕には骨のない子ども
僕の隣には乳房の三つある少女
骨のない子がくねりくねりとうごめくので
僕の両手は自由にならず
電車が揺れるたびよろけて
少女の乳房をわざとではなく肘打ちしてしまう
進行方向隣の車両では宴会の気配
今はまだ新鮮な肴と音楽
猥雑な野次と嬉しげな嬌声
進行方向反対の車両からは労働の気配
油臭い空気 規則正しく人に命令するピープ音
明滅する赤と青の光
そしてこの車両では春と秋の風みなぎり
椎の花 稲の花 桜花
びっしりと産みつけられた虫の卵
ふくふく匂う堆肥 やかましく鳴く雛たち
胞衣を食んでいる母牛
僕は口を使って
胸のポケットから水色の切符を引っぱり出す
行き先は「→いやになるまで西」
知っているけれど確認する
途中下車は無効